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建設業の承継

SUCCESSION

建設業の承継における検討事項

建設業承継手続きの概要

令和2年10月、建設業法が改正され、建設業許可の承継制度が創設されました。
改正前は、個人事業主が組織を法人に変更した場合や法人が合併した場合において、建設業の許可番号を引継ぐことができず、許可番号の変更を余儀なくされたり、事業の空白期間が生じたりするという問題がありました。令和2年の改正により許可番号を引継ぐことが可能となり、空白期間の問題が解消される等、事業再編における仕組みが整いました。また、相続による承継という新たな制度ができました。

ただし、事実上の合併・譲渡、あるいは相続等があっても、その事実により建設業許可が当然継承されるものではありませんので、「建設業者としての地位の承継を伴わない」事実上の合併・譲渡等と建設業許可の承継(建設業者としての地位の承継は区別して考える必要があります。

令和2年の改正前から、事実上の承継が行われた場合に経営事項審査において被承継事業者の実績を引継ぐ取扱いはあり、建設業の事業承継に関する配慮がされていました。反面、この取扱いの基本となっている承継が行われた場合における「経営事項審査の事務取扱い」ガイドラインは改正前に作成されたものであるため、許可の承継との整合性において注意が必要です。

以上を前提にした「公共工事を請負う建設事業者の承継手続き」においては、下記の3つを混同されがちですが、それぞれ別々に検討する必要があります。

  1. 建設業許可の承継(建設業者としての地位の承継
  2. 経営事項審査における承継
  3. 公共工事発注機関における承継手続き

公共工事を請負う建設事業者様は、当初の段階で、経営事項審査だけではなく、公共工事発注機関における入札参加資格の登録状況や各発注機関の承継時における考え方の差異も念頭に入れておくことが大切です。

建設業許可の承継

建設業許可の承継制度は、建設業法第17条の二、第17条の三にて示されています。「譲渡及び譲受け並びに合併及び分割」と「相続」の2つがあり、下記4つのパターンが明記されています。

  1. 建設業者が許可に係る建設業の全部の譲渡を行う場合(建設業法第17条の二 1項)
  2. 建設業者である法人が合併により消滅する場合(建設業法第17条の二 2項)
  3. 建設業者である法人が分割により建設業の全部を承継させる場合(建設業法第17条の二 3項)
  4. 建設業者が死亡した場合に相続人が建設業の全部を引き続き営もうとする場合(建設業法第17条の三)

令和2年改正前では個人事業主の方が法人に組織を変更(=法人成)された場合や代替わり等があった場合、承継事業者にて新規で許可を取得する必要がありましたので、許可番号の変更という不都合が生じました。また個人の廃業届を提出したうえで新規許可申請を行うため、個人から法人(個人)への移行期間につき、許可における空白期間が生じました。

法人における合併・分割等においても、改正前では被承継会社の許可番号を選択することができないという不都合や、承継会社が合併等期日前から被承継会社と同様の許可要件を具備していない限り建設業許可の空白期間ができる等の問題がありました。

また個人事業主が突然亡くなり相続人が家業を継がれる場合、相続人が許可要件を満たしていたとしても許可番号を引継ぐことはできず、後述する経営事項審査においても法人成や代替わり、合併等と違い被相続人の実績を引継ぐことは不可能とされていました。

令和2年の改正により、これらあらゆる場面で許可の承継が可能となりました。個人事業主が死亡した場合でも速やかに手続きをすることで、許可の承継が可能となり、経営事項審査においても被相続人の実績を引継ぐことが可能となり得ると考えられます。
ただし承継事業者が許可の要件を満たさない場合においては、当然承継が認められませんので注意が必要です。(建設業法第17条の二4項、第17条の三3項)

建設業法における承継のための要件を満たしている場合でも、建設業法上の「建設業者としての地位の承継」は当然にされるものではなく、認可申請が必要です。逆に事実上の法人成や合併等が行われる場合、必ずしも建設業許可承継の認可申請を義務付けるものではありません。場合によっては、従来からの業種追加や新規許可申請で対応した方がいい場面も考えられます。

また実務上の行政手続きでは、詳細手続や考え方について、許可権者において差異があるため慎重な対応が必要です。(個人事業の法人成における承継認可について、事前認可を認めていない行政庁もあります。)

「建設業者としての地位の承継」の効果として、被承継事業者の建設業上のすべての義務を引継ぐこととなり、承継事業者は被承継事業者の受けた監督処分や承継後の決算変更届の提出義務等を引継ぐとともに、被承継事業者の経営事項審査の結果についても承継事業者において有効となります。改正後の国交省総合政策局建設業課の許可事務ガイドラインにおいては、「承継人は被承継人と同じ地位に立つこととなる。このため、建設業者としての地位の承継人は被承継人の受けた法に基づく監督処分や 経営事項審査の結果についても、当然に承継することとなる。」とし、建設業者としての地位の承継の効果を示しています。

承継が行われた場合の経営事項審査

令和2年改正前から、経営事項審査において被承継事業者の完工高や技術者数、場合によっては営業年数を引継ぐことが可能でした。これが「承継時経審」「合併時経審」等(以下、特殊経審という)といわれるもので、下記国交省の通知が取扱いの根拠となっています。

公共工事発注機関は有効な経審の結果を持った者にしか公共工事を発注することができません。(建設業法第27条の二十三 1項)

許可の承継制度ができるまでは、法人成の場合、新規の許可取得後に法人として経審を受審するまでの間、公共工事を受注できない期間が生じていました。合併においても存続会社が必要なすべての経審の結果を持っていない場合、特殊経審をできる限り早く受審し、実態を反映した状態の結果を早く入手すると同時に空白期間を少しでも短くする必要がありました。消滅会社の経審の結果を存続会社の有効な経審の結果とすることで空白期間の問題は解消されることになりますが、これは建設業法第27条の二十三 1項における問題ですので、この考えに基づいた発注機関での承継手続きができなければ、業種追加を含む従来の方法も検討する必要があるかもしれません。合併する両方の会社がそれぞれに経審の結果を持っており同じ業種で評点を持っていた場合の取扱いや実際の承継、変更手続き等を含む登録手続きについては、各発注機関の判断により大きく異なると考えられるため、当初より入札参加資格申請や格付の考え方を含む発注機関における登録手続きを念頭に、消滅会社と存続会社それぞれの決算日および合併期日、さらに合併時経審の重要性を考慮してタイムスケジュールを検討する必要があります。

なお、許可の承継認可手続き(建設業者としての地位の承継)が合併時経審の前提要件となるわけではなく、また許可の承継認可を受けたからといって合併時経審の受審を義務付けられるものでもありません。

【特殊経審について】

通常、経営事項審査は会社の決算日を基準日として受審します。決算日以外の任意の日をもって審査基準日とすることはできませんが、特殊経審の場合は、次の決算を待たず、合併期日や法人設立日等を基準日として合併時経審や承継時経審を受審することができます。

例えば、ともに建設業許可を持ち公共工事を受注している法人の2社があり、一方が他方を吸収合併することとなった場合を考えます。

ケース1

消滅会社、存続会社の決算日がともに3月31日で合併期日が令和4年11月15日だった場合、経審の結果の有効期限は基準日から1年7か月であることから、合併期日の11月15日にはすでに令和4年3月31日基準日の経審の通知書を両社が受領していることになります。合併後の存続会社の経審は、本来令和5年3月の決算を待って受審し、早くても令和5年7月頃にならなければ合併後の経審の通知書を受領することはできません。前述したように法改正以前は、消滅会社の経審の結果は存続会社の結果として有効であるという取扱いはありませんでしたので、吸収合併で存続会社が消滅会社の有していた業種の経審の結果を持っていない場合、合併期日の令和4年11月15日以後、存続会社の合併後の経審の結果が得られる令和5年7月頃までの約8か月間は、公共工事を受注できない状況になります。公共工事を常時受注されている事業者様にとっては、これは大問題です。

そこで例外的に認められたのが合併時経審で、次の決算を待たずに経審を受審することができます。上記の場合、合併期日の令和4年11月15日を審査基準日として経審を受審することができますので、必要となる合算財務諸表を速やかに準備し、12月中旬に経審を受審すれば、空白期間が3か月弱で済むということになります。(許可状況により、さらに日数が必要となる場合があります。)

ケース2

両社がともに3月決算で合併期日が4月1日という、ケース1とは少し状況を異にした場合を考えます。経審の通知書の有効期間はどんな経審にもかかわらず、基準日から1年7か月です。合併時経審を受審しない場合は、原則的な決算日を基準日とする通常経審を受審する必要があります。ケース2のように通常経審と合併時経審のどちらかを選択することができる場合も、合併時経審を受審するのが普通です。ケース1ですと、合併時経審を受審すると通常より1回余分に経審を受けることになりますが、このケース2では、通常より1回余分に経審を受審することなく合併時経審を受審することができるうえ、合併時経審の方が実態として正しく、かつ総じて結果もより良くなるからです。したがって、できるだけ合併時経審を受審する方が望ましいですが、合併時経審は合算財務諸表の作成等、通常経審に比べ事務処理負担も大きく、受審を義務付けられているわけでもありませんので、合併時経審ではなく通常経審を受審するという選択もあります。

承継時における特殊経審は、どちらの手続行政庁でもある程度定着しています(特殊経審自体を実施していない行政庁もあるようです)が、令和2年に許可の承継制度ができたことにより、特に個人事業者の承継については、その整合性との関係を含めやや複雑となっています。法人成や代替りについては、上記「経営事項審査の事務取扱いについて(国総建269号)」にてその対象者につき明確に示されています。反面、令和2年の法改正では、この対象者に該当しない者への「建設業者としての地位の承継」も認められると解されます。その場合や相続における承継が行われた場合では、「建設業の譲渡に係る建設業法上の事務取扱の円滑化について(国総建311号)」にて対応することになろうかと考えられ、こういったケースでは「建設業者としての地位の承継」が、特殊経審の前提となると考えられます。行政手続きにおいては非常に稀なケースまで事前に明確に整理しておくことは難しいということを踏まえたうえで、対応していく必要があります。

公共工事発注機関における承継手続き

入札参加資格の登録をしている公共工事発注機関における建設業承継後に行う手続きについては、「入札参加資格承継手続き」としていたり、「単なる内容変更手続き」としていたり、各発注機関によって異なります。

通常の入札参加資格申請においても、経審の結果に一定の制限を設けている、定期受付期間以外の追加申請を一切受け付けない等様々ですし、格付制度においても、等級の基準はもちろん格付が行われる時期や頻度等、各発注機関によって異なります。このような状況の中、承継後における対応が一様ではないことは当然のことといえます。事実上の承継だけではなく、「建設業者としての地位の承継」を行っても、一定期間従来の登録を継続することが不可能なケースは十分想定されます。加えて承継期日も問題になってきます。発注機関における入札参加資格の有効期間の始期は4月1日であることが一般的ですが、合併期日等承継期日が同じ4月1日の場合には特に注意が必要です。発注機関により、承継に先立つ入札参加資格申請の受付時期において対応を求められる場合があります。

入札参加資格登録では、必要とする経審の結果の状況やそれに伴う格付への対応も、各発注機関によって様々です。既に登録されている発注機関の制度を踏まえたうえで検討することが重要です。

承継手続きの際の留意点

建設業における行政手続きについては、国交省が法令や法解釈を示し、地方整備局又は都道府県の担当部局が許可手続き・経審手続きを行い、工事の発注業務等は主に各省庁、都道府県、市町村の契約担当部署が行っています。
許可・経審に係る行政事務は法定受託事務ですので、知事許可の場合、処分権が知事にあり、法解釈の問題に加え裁量権があります。
また各発注機関では建設業法を含む諸法令を意識して、それぞれ独自に登録手続きに関するルールを定めているうえ、その見直しは常にされているわけではありません。
法令や法解釈の理解とともに、行政庁や発注機関との丁寧なやりとりが不可欠です。

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